~北京路地裏逍遥紀~
北京でのビールは進まない。
ましてや北京名物、羊のしゃぶしゃぶをそばに
ぬるいビールで乾杯。苦手だ。
ハイボールはないのか?何かビール以外の酒はないか?
ちびちびと、何かぼちぼち飲ませて欲しい。
「パイチュウ、アルヨ。」
そう呟いたのは出稼ぎの上海女。
「白酒(パイチュウ)はストレートでクイッと男らしく。
一気で。中国ではこれ。かっこいいでしょ?」
そうぼやきながらひたすら目の前で羊を
しゃぶしゃぶやっている。
60度ほどある酒を一気飲みなんてしたくない。
身体中が羊肉の匂いで気持ち悪くなりだしたので
注文した小瓶の白酒を手にそそくさと店と食べ続ける
上海女を後にした。
1月。この時期の北京市街は氷点下10度を下回る。
凍える体に女の言う通りクイッと白酒を流し込んだ。
ヴォッカのようにやるようだが少し口当たりが気になったので
今度はチビリとやってみる。
焼酎でもなく泡盛でもなく、またウォッカでもない。
30元(500円ぐらい)ほどの安瓶だがなかなか味わい深く、
米の甘みと度数の高さがその気にさせる。
冷えた大気が膝下に潜る。
ちびりちびりと呑みながら、
逢魔時の路地を彷徨う。
すれ違う者に気配はなく、
街灯の陰にのみ潜伏する月の気配。
迷い込んだら白酒一口。
路地猫が招く闇への依存。
街路樹見事な乱舞技。
ビールはパブで。ウィスキーはバーで。
日本酒、焼酎は料理屋で。そう、美味いアテと。
必ずしもこのように定まった場所で
飲めとは言えないが大体これが正しい。
酒場というのは各々の酒がもたらす酔いを
想定して作られている。
照明にしても椅子にしても。
BGMやバーマンの服装にしてもそうだ。
蛍光灯下で飲むウイスキーが味気ないように。
そしてこの中国の伝統的蒸留酒、白酒はどうだ?
宴会でストレートで一気にやるよりも
路地裏で黄昏時に歩きながらチビチビやることを勧める。
重く赤い街灯の光が心拍数を落ち着かせ、
行き交う人々の呼吸から親日の風が心地よく
包み込んでくれる。
そういえば大阪、天六界隈のおっちゃん達はどうだろう。
ワンカップ片手に路地裏を逍遥するその姿はカウンターに
座り、目を泳がせる紳士面のオヤジと対等の酒の嗜み方だと
言えるのではないか。
酒を愛する者たちの逍遥し続ける姿、思考を侮ってはいけない。